エリザベス・ウッドヴィルをドラマ「ホワイトクイーン」で見ました。
エリザベス・ウッドヴィル・・・誰でしょう?ホワイトクイーンの意味とは?原作の小説があります。小説の翻訳は「白薔薇の女王」です。
白薔薇・・・美しいですね。タイトルから美女の代名詞のように思えます。クイーン、または女王というからには王妃になった女性、あるいは女王になった女性を連想します。
楚々とした美女だったのか、野心的なタイプだったのか興味が湧いてきました。
ドラマ「ホワイトクイーン」は英国の内乱、薔薇戦争の人間模様を描いたドラマです。私たちの知る歴史とは少し違うところがあるかもしれません。
どんなドラマなのでしょうね?
エリザベス・ウッドヴィル・・・どういう人?時代背景は
1400年代の英国の女性です。そして英国王エドワード4世と結婚し王妃となった女性です。
ところがその結婚があまり周りから祝福された結婚ではなかったのです。
まずエリザベス・ウッドヴィルの出自から見て行きましょう。
まずはエリザベスのお母さんから、母はジャッケッタ・ド・ルクセンブルク・リュクセンブルク伯爵の娘です。(おそらく現在のルクセンブルク)。
ジャッケッタはイギリス国王ヘンリー5世の弟ベッドフォード公ジョンと結婚していたのですが、夫の没後、公爵の侍従だったリチャード・ウッドヴィルと再婚しました。
奇しくも、ジャッケッタの義理の姉、ヘンリー5世妃キャサリンも秘書のチューダーと秘密裏に結婚しており、義理の姉妹揃ってこれってどうなの?そんなに未亡人でいるときに出会える男性ってそんなに素敵なの?と思うのですが・・・・
しかもこの二人キャサリンとジャッケッタ達の子孫が巻き込まれた歴史は優しくありません。
リチャード・ウッドヴィルは使えたベッドフォード公がランカスター家でしたから、ウッドヴィルもランカスター側におり、時の国王ヘンリー6世からリヴァーズ伯爵位を受けています。
ジャッケッタとウッドヴィルの間に生まれたこの一人がエリザベス・ウッドヴィルです。エリザベスはヘンリー6世の王妃、マルグリッド・ダンジュー(マーガレット・オブ・アンジュー)に仕え、15歳でランカスター側の騎士、ジョン・グレイと結婚し、子供をもうけます。
イギリスはちょうど薔薇戦争と呼ばれた内乱時代。
プランタジネット王朝のランカスター家ヘンリー5世が、若くして亡くなったため、幼少のヘンリー6世が即位して、叔父たちが摂政を勤めていました。
王が幼いことを理由に、ほかの王位継承者が王位を主張して内乱が起こりました。
ヘンリー6世の祖父ヘンリー4世の時代に遡って、同じくプランタジネット朝のヨーク家が王位の正当性を訴えてきました。それが薔薇戦争です。
夫のジョン・グレイはエリザベスが24歳のときはその内乱で戦死しました。
夫を戦争で失い、やがてヘンリー6世も廃位に追い込まれ、代わりにヨーク家のエドワードがエドワード4世として王位につきます。ウッドヴィル家が味方についたランカスター側は所領の没収に会い、生活に困窮するまでになりました。
エリザベス・ウッドヴィルはなんとか夫の所領の返還を求めて、エドワード4世のもとに赴くのですが、そこでエドワード4世に気に入られて、ついに秘密裏のうちに結婚してしまうのでした。
なぜ「ホワイトクイーン」(白薔薇の女王)という名が?
「ホワイトクイーン」とは、まさしくエリザベス・ウッドヴィル本人のことです。
ドラマ名は「ホワイトクイーン」、原作となったフィリッパ・グレゴリーの小説で「The White Queen」です。日本語訳は「白薔薇の女王」です。
なぜ、ホワイト、白、というか?それはエリザベス・ウッドヴィルがヨーク家のエドワード4世と結婚し、王妃になったことからきています。
薔薇戦争では、ヨーク家、ランカスター家それぞれが家紋にバラをつけて戦争に望見ました。ヨーク家は白薔薇、ランカスター家は赤薔薇をつけていました。だから薔薇戦争というのです。
しかし元々はランカスター側にいた女性が結婚してヨーク家に入り、王妃になった、そこでヨークのカラーをとって「ホワイトクイーン」(白薔薇の女王)と呼ばれるようになったのです。
王妃になったエリザベスは、子供も産みます。男の世継ぎも生まれます。
エリザベス・ウッドヴィルは結婚は自分の一族を守り抜くため、エドワードとの結婚後は自分の子供たちを守り抜くため、という強い意志を持って突き進んでいく女性です。
その意志、行動がヨーク家の擁護者としての役割を果たすようになるから、ヨークの「白薔薇の女王」、ホワイトクイーンの名称となった、そう思われます。
実はフィリッパ・グレゴリーには「 The Red Queen」という(赤薔薇の女王?)という小説もあって、こちらはマーガレット・ボーフォートという女性を主人公にしています。こちらはランカスター側の人間で、次の王家にも関係してきます。こちらの翻訳はまだ出ていないと思いますが。
軽くマーガレット・ボーフォートについても重要な人物ですので少し触れておきましょう。
マーガレット・ボーフォートはさかのぼること、ヘンリー4世の父の庶子だったジョン・ボーフォートの孫に当たります。庶子ではありますが一応王家の血は引いています。
そのマーガレット・ボーフォートの夫はエドマンド・チューダーといい、ヘンリー5世の王妃だったキャサリン・オブ・ヴァロワの再婚相手オウエン・チューダーの息子です。
マーガレットとエドマンドの間にはヘンリーという名の息子がいます。この辺りの血縁関係は複雑です。誰かがどこかで繋がっている・・・そんな王家です。ややこしいですね。
テレビドラマ「ホワイトクイーン」は小説「The White Queen」と「The Red Queen」をベースに、そして「The White Princes」をベースに作成しました。
エリザベス・ウッドヴィルの心情
エリザベス・ウッドヴィルとエドワード4世の結婚はヨーク側にとって、ツッコミどころ満載の結婚問題でした。
まず、エリザベス・ウッドヴィルがエドワード4世にとって敵側ランカスターの人間であったからです。敵方ということはいつヨーク家にとって害をなす人物に変わってもおかしくありません。
しかも未亡人、結婚していた女性。身分も低い。母がベッドフォード公妃だったとしても再婚した相手(エリザベスの父親)の身分が、ただの騎士というので、とても王妃となるにふさわしい身分の女性ではない。
さらに、王になったからには正式な王妃が必要と、側近が隣国フランスに縁談交渉にしている最中でした。
交渉に当たった側近は大恥をかかされたわけです。
その臣下はウォリック伯リチャード・ネヴィルと言いました。これがきっかけで長年の主従関係を続けてきたウォリック伯はエドワード4世と袂を分かちます。
エリザベス・ウッドヴィルは最初からエドワード4世との結婚を狙っていました。また、自分の所領を奪って言ったウォリック伯を恨んでいました。エドワード4世と結婚することで一族の土地を取り戻そうと考えていました。
ウォリック伯のヨーク派からの離脱は、エリザベス・ウッドヴィルの復讐の一つだったのかもしれません。
これを狙っていたかは不明ですが、結果復讐となりました。それにウォリック伯はエリザベス・ウッドヴィルとエドワード4世の結婚に反対だったから、敵を排除できたことにもなります。
エリザベスの母ジャッケッタには呪術の心得があり、呪い(まじない)によって、エドワードの心を引きつけたことが小説に出てきます。
エリザベス・ウッドヴィルの肖像画は今でも残っています。確かにたいそうな美貌ですね。ただちょっと小賢しい感じに見える気がするのですが、気のせいでしょうかね?
自分の美貌にも自信がありました。でもさらに美貌に磨きをかけるため、薬草から作った美容液など使っていました。
何としても王妃になりたい。もちろんエリザベスは自分の身分も良く心得ていたし、寡婦である事情もよく心得ていました。
運よくエリザベスがエドワード4世と出会えても、愛人で終わる可能性の方が大きいのです。それでも王妃となる望みを持ち続けました。
実際エドワード4世は、エリザベス・ウッドヴィルの愛を得ようとするのですが、そのためにには「結婚」しなければ絶対に愛は捧げない、とこう王に告げるのです。
そうして二人は結婚式をあげます。エリザベス・ウッドヴィルの地元で、エリザベスの母ジャッケッタだけを証人として結婚します。この時二人はウッドビル家からも、エリザベスの元夫グレイ家からも、ましてエドワードのヨーク家からも、誰一人として賛成する者がいないと知った上でです。
既成事実を作り上げることから始めたのですね。
ある意味、エリザベス・ウッドヴィルは執念深い女性です。
自分の領地のためににエドワード王に近づき、結婚を強く望み、奥秘になれるよう望み、結婚後は後継を産めるよう望み、男子を得た後はその息子に王位を継がせようと望み、そのためにどのような手段を取ることも恐れない女性でした。
「ホワイトクイーン」一味違う薔薇戦争物語 ドラマに歴史を見る
これまでにも薔薇戦争を扱った物語はありました。と言ってもシェイクスピアに基づいた映画、解説書がほとんどでした。
このフィリッパ・グレゴリーの物語は、女の戦いが中心です。もちろん戦争の内容も描かれていますが。薔薇戦争が縦軸なら、女性の人間模様が横軸です。
「ホワイトクイーン」では女性達の対立が要だ、と私は思うのです。
主役のエリザベス・ウッドヴィルは王妃の地位に執着し、息子の戴冠を願い、マーガレット・ボーフォートは自分の息子ヘンリーを王位継承にするべく立ち回ります。息子ヘンリーは王位につくには、庶子の家系でもあり血筋だけでは難しいので、マーガレットの活躍が見られるのです。
また、エドワード4世の弟はリチャード3世で、彼の王妃はアン・ネヴィルといってウォリック伯の娘です。この女性もまた王妃への執念を示します。
そしてマーガレットがもう一人出てきます。ヘンリー6世の妃のマーガレット・オブ・ダンジューです。この女性の、王位に対する執着はすざまじいです。
「ホワイトクイーン」でももちろん、シェイクスピア劇ヘンリー6世〜リチャード3世に至る中で壮絶な執念、個性を発揮する女性でした。
夫ヘンリー6世は気鬱の病で退位を促され幽閉され、それが元で命を落とし、後継となる息子は殺され復讐の鬼と化した、と言ってもいいでしょう。
「ホワイトクイーン」ではこの4人の女性、エリザベス・ウッドヴィル、マーガレット・ボーフォート、アン・ネヴィル、マーガレット・オブ・ダンジューが四つ巴となって活躍、いやもしかしたら牙をむく・・・・と言った方がいいかもしれません。
もう一つ面白いことがあります。シェイクスピアではあんなに悪役だった、リチャード3世がここでは悪役ぶりを発揮しません。
むしろ、兄を補佐する忠実な弟として描かれています。と言っても最後の方では自分の王位を懸命に守ろうとするのですけれどね。
リチャードの妻となったアン・ネヴィルにも昔から想いを寄せていた設定になっています。また、姪のエリザベス(エリザベス・ウッドヴィルとエドワード4世との娘)からも慕われます。そこでリチャードはアンと離婚して姪と結婚するつもりになっていましたが。叔父と姪との近しい者同士の結婚・・・もしそうなら、教皇から許可は出るのかな?
ロンドン塔の幽閉事件も独自の展開を描いています。リチャード3世がエドワード4世の世継ぎの息子を幽閉し、命を奪う事件は、二人の王子はロンドン塔に幽閉されるが行方不明になる、という結末にしています。
しかも下の王子はロンドン塔に入りる段階ですでに替え玉になっています。この行方が気になります。
全く作者は現代での説、推測をうまく取り入れた作品作りをしているところに感心します。
歴史は最近には随分、これまでの説とは違う事項が研究、発見されています。まだ推測の域を出ない説もたくさんありますが、小説やドラマの中では好きに想像の翼を広げることができるのです。
そしてこの小説、ドラマはまさに女性のドラマです。最近は歴史物語でも女性が生き生きと描かれるようになりました。女性が活躍すると歴史はより一層面白くなります。
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