レイディマクベスの公演が今非常に人気です。
主演天海祐希はもちろんですが、共演の、アダム・クーパーにも注目です。
原案は、シェイクスピアの「マクベス」から。
「レイディマクベス」を観るに当たって、シェイクスピアの「マクベス」も頭に入っている方がよりお芝居を楽しめます。
あらすじを軽くご紹介しておきます。
「レイディマクベス」の根底にどんな要素が、シェイクスピアから来ているでしょうか?
この記事では、マクベスの役としての人物を知る鍵を、シェイクスピア劇に探してみました。
役にアダム・クーパーが加わることで、どんな魅力が出るか、予想してみました。
レイディマクベス アダム・クーパーの役 マクベス
シェイクスピア「マクベス」では、マクベスが主人公ですが、「レイディマクベス」は、マクベスは共演で、レイディマクベスと2人が芝居の中核です。
レイディマクベスの夫、そして共に軍人。
2人は戦場で、出会い、恋をして子供を持ち夫婦となります。
2人が惹かれあったのは、同じ夢を持ち合う者同士だったから。
それは、2人で、国を納め平和な国を作ろうという夢でした。
しかし結婚してからは、マクベスだけが戦場に戻り、妻 レイディマクベスは残され、どこか満たされない気持ち。
その時、マクベスは妻の虚しさを、知っていたでしょうか?
そんな中、2人の上官でもあり、国王であった、ダンカンが後継者を血縁以外から選ぶ可能性もある、と宣言しました。
そこで、マクベスとレイディマクベスの野心が、頭をもたげてきました。
一方、マクベスは、戦場での殺戮から精神を蝕まれるようになり、やがて、失語症となります。
失語症となると、セリフは無くなりますが、その代わりの演技が求められます。
アダム・クーパーのキャリアはバレエダンサーでしたので、パントマイムを駆使した表現力はお手のものでしょう。
アダム・クーパーは、最近ミュージカルにも出演していますが、ストレートな演劇はこれが初めてです。
演劇は、初めてでも、演出のウィル・タケットとは何度も仕事をしており、35年ほどの付き合いであります。
レイディマクベス アダム・クーパーのマクベス、見どころは?
主演の天海祐希に注目が集まるのは当然ですが、マクベスあってのレイディということをまず頭に留めておいてください。
マクベスとの愛があったからこそ結ばれ、それゆに悩むことになるレイディマクベス。
ですが、戦争に明け暮れるマクベスにも心の平安は訪れません。
これにはシェイクスピアの「マクベス」に出てくるセリフ
「もう眠りはないぞ」
「グラミスが眠りを殺してしまった。おかげてコーダは眠れない。マクベスはもう眠れないぞ」
訳:福田恒存
にある通り、眠りを失い(不眠症)、それにより心が蝕まれてきます。
もちろん妻のレイディも、心の均等を失いつつあります。
ちなみに、グラミスもコーダ、どちらもマクベスが領主である土地の名前です。
2人共に精神を病んでくるということは、シェイクスピア「マクベス」のどちらがマクベス、どちらが妻というのではなく、2人の役が一緒に合わさっているのです。
「レイディマクベス」の中では、マクベス、レイディ2人ともが、同じ要素を心に宿しています。
2人で一つ、一つで2人、というのが作家の意図のように思えてなりません。
さらに他の登場人物が絡んできます。
誰もが王位を狙う人ばかりに見えます。
「王位」というものは、一体なんでしょうか?
なぜ皆、それを欲しがるのでしょうか?
そして、それが本当に欲しいものなのでしょうか?
王位によって心を蝕まれる・・・もしかしたらそれは「『マクベス』の呪い』なのかもしれません。
「マクベスの呪い」については後半で、説明させていただきます。
レディマクベス アダム・クーパー 日本語に挑戦!
「レイディマクベス」のもう一つの見どころですが、アダム・クーパーのセリフは日本語です。
イギリス人のアダム・クーパー、そして日本人キャスト達、さてどの言語で芝居をするのでしょう?と思われていましたが。
全て日本語です。
そのためにアダム・クーパーは日本語を特訓したそうです。
芝居のセリフ回しは、日常会話の日本語と比べて、独特ではありますが、それでもアクセントなどにできれば英語訛りが入ってほしくはないので、そこの訓練が一番大変かと思われます。
しかし、劇中でマクベスは言語を失ってしまうので、そんなにたくさんの日本語を覚えなくてもいいのでしょうね。
反対に、日本人俳優が、アメリカでハリウッド映画に出演したり、ブロードウェイミュージカルの出演の話も聞きますが、彼らは大体、英語を得意としていたので、一から始めるのとは違いますが。
それでも、発音を徹底的に矯正されたと言います。
いずれにせよ、慣れない言語で芝居をするのは、並大抵な苦労ではないでしょう。
お芝居をみた感想の中でも、「アダム・クーパー、だけ英語でやってもよかったのかも・・」というのがありますが、さて、どちらがいいでしょうか?
英語や芝居、日本語で芝居、どちらでやってもそれぞれ面白いものになりそうです。
レイディマクベス アダム・クーパーのマクベスの源典 シェイクスピアの「マクベス」
シェイクスピア マクベス あらすじ
スコットランドのスコットランド王国の王マクベスが、自身の野心と妻レディ・マクベスのたきつけられ、王位を手に入れようとする物語です。
物語は、マクベスが3人の魔女に出会う場面から始まります。
彼女たちは彼に将来の王である、と予言します。
その予言がマクベスの野心を呼び起こし、妻の協力を得て、スコットランド王を暗殺し、自ら王位につきます。
マクベスは王として成功するものの、自分がおかした罪の罪悪感に苦しめられ、次第に狂気に取り憑かれ、幻覚を見たり、幽霊を見たりするようになります。
レディ・マクベスもまた、罪悪感に苛まれ、精神的に病んでいきます。
物語は最終的に、マクベスが敵に包囲され、最後の戦いで命を落とす場面で結末を迎えます。
彼の死によって、新たな王が即位することになります。
シェイクスピアのマクベス像
マクベスは残忍だったか?
シェイクスピアのマクベスは、魔女のささやきを聞き、王位に野心を抱き、ダンカン王を殺害し、自分が王になります。
王の殺害をそそのかしたのが妻の、マクベス夫人ことレイディマクベスだったのです。
マクベスと夫人は、自分達が勝ち取った王位を守るため、障害となる人物を殺します。
そこからマクベスの精神はだんだんと病んできます。
マクベスに、王を殺し、自分が王になるよう勧めたのは、妻なので、妻の方が残忍、そして気丈に見えますが・・・
妻は残酷なことを口で言うだけで実は何一つ実行していません。
そして、妻の方が先に、精神の均衡を崩し、先に死にます。
マクベスとレイディマクベスのどちらの精神が強かったのでしょうか?
そして本当に残忍だったのはどちらでしょうか?
それとも2人とも残忍性が足りなかったのかもしれません。
この辺りが「レイディマクベス」のマクベス役に生かされているのところだと思います。
人は歩く影にすぎない
マクベスには、名ゼリフが出てきます。
「あすが来、あすが去り、そうして一日一日と小きざみに、時の階を滑り落ちて行く、この世の終わりにたどり着くまで。いつも、きのうという日が、愚か者の塵にまみれて死ぬ道筋を照らしてきたのだ。」
「消えろ、消えろ つかのまの燈し火!人の生涯は動き回る影にすぎない。哀れな役者だ。・・・」
訳:福田恒存
これはマクベス夫人が死亡との知らせを聞いた時のセリフです。
このセリフにはマクベスの心の叫びが現れています。
ここで、マクダフたちが反撃のため攻めてきました。
「森が動いた」と。
実は、マクベスは3人の魔女から、「森が動かぬうちは、お前は(マクベスは)滅びない」と予言があり安心していました。
実は、マクダフの軍勢が森の木を切って、それを手に持って進軍してきました。
マクベスたちから見ると、森が動いてやってきたようにしか見えません。
同じく、魔女の予言にあった、「女性から生まれてきたものにはマクベスは倒せない」でしたが、これもマクダフが帝王切開によって生まれてきた子供だったため、予言から外れていました。
ヤケになったマクベスは、自ら飛び込むように死に向かいます。
マクベスの行動は潔かったのでしょうか?それとも諦めの気持ちだったのでしょうか?
「人生は歩く影」、この考え方も「レイディマクベス」にはぜひ反映させてもらいたい要素です。
マクベスの呪い
シェイクスピアの芝居「マクベス」には呪いがかかっていると言われています。
この芝居に、関わった人たちは、事故に遭うことが多かったからです。
では一体どんなところでしょうか?
呪いの起源
シェイクスピアの「マクベス」上演には呪いがある、と言われています。
シェイクスピアがこの芝居を書いた理由の一つに、新しくイングランド国王になったジェイムズ一世に気に入ってもらうためです。
それに、劇中に魔女と魔術が登場します。
当時は、魔女は忌み嫌われていて、魔女狩りが行われていました。
そんな邪神から予言を受けて王になったマクベスは、偽物の王である、と思われるのが当時の考え方でした。
その結果、マクベスは、流血事件を起こして王位を手に入れたのですから、正義の王でもなんでもなく、呪われて当然の王だったのです。
シェイクスピアは、この芝居を書くために、魔術、呪文の研究をしました。
そのため使われた呪文は本物、呪いをかける薬の材料も全て魔女が作ったものだったそうです。
呪術によって王になったマクベスは、正義の王とそれを支持する者たちの手で、葬り去られました。
さらにマクベスの登場人物、バンクォーはジェイムズ1世の先祖に当たりました。
そのジェイムズ一世は、大の黒魔術嫌い。
ある意味、この芝居は、ジェイムズ一世に忖度したところもあるみたいです。
なぜ呪いがかかるか?
シェイクスピアが単に、呪いを芝居の中に登場させた、だけが理由ではありません。
それなら、マクベスがダンカン王の息子および支持者に殺された段階で呪いは消え去ったはずです。
実は、シェイクスピアの「呪い」の扱い方が不完全だったから、と言われています。
さらに魔女を描いて、芝居に出し人目にさらしたので、魔女が怒ったのでは?と考えられてます。
別な言い伝えもあります。
シェイクスピアは芝居のセリフを、5つの音節で収まるように書きます。
しかし、魔女の呪いだけ、4音節に収まり、それは足の演技の場合にしか使わないやり方だった他ため、侮辱を受けたと思った、魔女が怒った、ということなのですが。
この説は、熱烈なシェイクスピア愛好家しか気がつきません。
私たちのような、平凡な日本人には英語にすごく詳しい人が、シェイクスピア研究家でもなければ、わかりにくいでしょう。
呪い、と言われるエピソード
実は、1606年の初演の時からたくさんあるのです。
- 初演では、マクベス夫人役の少年が(この時代、女性役は少年が演じた)突然死。
- 1849年、アメリカで上演された時は、2人のマクベス役者が口論をし、そこから町中を巻き込む喧嘩になり、「アフターブレイズの暴動」と言われる惨劇になった。
- 小道具の短剣と本物の短剣を間違えたための事件となった。
- 1942年、3人の俳優が原因は不明ですが、亡くなり、さらにスタッフが1人自殺した
なんて事件がありました。
呪いと言っても、どれもたまたま、〜だった、という感じです。
では他の芝居では、何も無かったというと、そういうわけではないでしょう。
呪いから逃れるには
まず、絶対に「マクベス」という名前を口にしてはいけません。
ではなんというのかといえば、「あの芝居」とか「スコットランドの芝居」などです。
これを禁断のエムワードと言います。
もしうっかりと口にしてしまったら、すぐ劇場を出てその場で3度まわって、唾を吐いてシェイクスピアのセリフを言うか、汚い罵り言葉を大声で並べ立てるといいようです。
なんだか日本の歌舞伎「四谷怪談」のお岩さんみたいです。
イギリスの芝居にも似たようなジンクスがあるのですね。
ただ、ステージに立つ人は、洋の東西を問わず、昔から非常に緊張を強いられるわけですから、自然とジンクス頼みとなるところから、できた伝説です。
今回の「レイディマクベス」はどうなのでしょうか?
脚本家に聞いてみたい質問ですね。
レイディマクベス、アダム・クーパー演じるマクベスのモデル
レイディマクベスのモデルはシェイクスピアの「マクベス」ですが、さらにシェイクスピアのマクベスにモデルが存在します。
モデルのモデル?
マクベスは11世紀に、実在したとされるスコットランド王です。
スコットランド北部の戦争で、ダンカン王を破り、殺して王になりました。
前王を殺して王になったのなら、物語と同じように殺人者の王なのですが、実際のダンカン王はシェイクスピアの描くダンカン王のように、尊敬すべき王ではありませんでした。
ダンカン王は戦争に負け続け、人望がありませんでした。
それなのに、マクベスの土地に侵略してきたものですがら、マクベスは戦いの末、ダンカン王を討ったというわけなのです。
王位についたマクベスは、スコットランドを平定し、平和をもたらしキリスト教を広めました。
この時代、キリスト教はスコットランド全土に行き渡っていたわけでは無かったからです。
マクベスはスコットランドを、うまく治めていたのですが、ダンカン王の息子たちが、親の仇と言ってマクベスと戦争を始めました。
その結果、ダンカン王の息子たちは勝利して、マクベスは殺された、という次第です。
ダンカン王の子供達の家系が16、17世紀にスコットランド王位につき、子孫に、ジェーイムズ1世、がいました。
シェイクスピアが仕えた国王です。(エリザベス1世死去の後に)
ですから、シェイクスピアはジェームス1世の先祖を殺した、マクベスを良く書くことができないのです。
これがシェイクスピアがジェームズ1世に忖度する理由です。
よって、マクベスは、悪王というレッテルを貼られてしまいました。
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