「ドン・ジョバンニ」はモーツァルトが作曲したオペラの主人公です。
女性好きで、女性を騙す悪いヤツです。
実はドン・ジョバンニのモデルになった人物がいます。
そんな人物が主人公でも、オペラは非常に人気があります。
2023年7月、兵庫県立芸術文化センターで、佐渡裕プロデュースで上演されます。
今人気上昇中のバリトン歌手、大西宇宙が主演です。
オペラのあらすじ、見どころに注目しながらこのオペラの魅力に迫ります。
ドン・ジョバンニ、大西宇宙主演
大西宇宙、ドン・ジョバンニ
7月15、17、20、23日はドン・ジョバンニを日本人、大西宇宙(おおにしたかおき)が演じます。
1986年生まれの若手バリトン歌手です。
ニューヨークのジュリアード音楽院に留学中の28歳の時に実力が認められていきた声楽家です。
大空宇宙さんの、今回のドン・ジョバンニにかける意気込みは、新時代のドン・ジョバンニといえます。
大空宇宙さんの、ドン・ジョバンニ観は、
「危険を顧みない人物。いつも自然体で言葉遣いも意図して話しているのではない。本質的に頭の良い人物。
また第1幕、平民の結婚式(マゼットとツェルリーナ)のために、身分関係なく自分の家に呼んでパーティーを開くなど、当時の貴族階級の人とは思えないほどの寛容さを持ち合わせている」
と言っています。
大西宇宙の声は滑らかで聞いていて心地よくさらに、情熱的に響くとの評判です。
現在37歳、声質、演技とも経験を経てとても魅力的な歌手です。
まさにドン・ジョバンニにピッタリ。
最終シーンの、地獄に引き摺り込まれるところは、どうなるのでしょう。
期待度100%です。
公演後の評判は、カッコよく、色気があるドン・ジョバンニとのことです。
日本にもついにドン・ジョバンニを演じられる歌手が出たのですね。
感激です。
2023年 夏 佐渡裕 プロデュース
2023年7月14日(金)〜23日(日)、兵庫県立外術文化センター KOBELCO第ホール、佐渡裕指揮で「ドン・ジョバンニ」のオペラ公演が行われます。
演奏は、兵庫芸術文化センター管弦楽団、合唱はひょうごプロデュースオペラ合唱団です。
演出、デヴィッド・ニース。
配役は2種類あり、海外の歌手中心の演奏日、そして日本人の歌手での演奏の日とあります。
最近のオペラ演出で、舞台が近代や現代になり、衣装も現代風の衣服である場合が増えましたが、今回のオペラは「正統派の演出、壮麗な舞台、エレガントな衣装」との宣伝ですので、モーツァルト時代の演出を楽しむことができそうです。
面白いところは、これまでの「ドン・ジョバンニ」はドン・ジョバンニとその使用人レポレッロを中心に進む物語でしたが、今回のオペラは周囲の人間が主となっています。
と言ってもドン・ジョバンニは脇役では決してなく、人々はドン・ジョバンニからどんな影響を受けていくか・・・という視点です。
チケットはただいま発売中です。売り切れの座席も結構あります。
ドン・ジョバンニのモデル
ドン・ジョバンニ自身は物語上の人物ですが、モーツアルトがオペラを書くにあたって、ある人物をモデルにしました。
それが、ジャコモ・カサノヴァです。(1725〜1798)
カサノヴァは1000人以上の女性と付き合ったと言うので、まさにドン・ジョバンニのモデルにぴったり。
カサノヴァの方が、ある時は外交官、ある時はスパイ、ある時は魔術師などと、ドン・ジョバンニより、働き者でした。
そして、カサノヴァは、「ドン・ジョバンニ」のオペラ台本家、ロレンツォ・ダ・ポンテと知り合いでした。
ダ・ポンテは、台本を書くにあたって、カサノヴァに取材しました。
ダ・ポンテを通して、モーツァルトとも親交を持つようになりました。
モーツァルトが原作に選んだのが、1630年、スペインの劇作家ティルソ・デ・モリーナが書いた「セビーリャの色事師と石の客」でした。
この劇作家は修道士だった。ですから悪いことをした者は最後に地獄に落ちる、と言う結末になったのでしょうか?
また1600年代後半には、モリエールは「ドン・ジュアン」と言う戯曲を書きました。「ジュアン」は「ジョバンニ」のイタリア語読みです。
「ドン・ファン」伝説と、実在のカサノヴァを組み合わせたオペラを作り上げたのが、モーツァルトとダ・ポンテなのですね。
つまりは、伝説・実在の人物・作曲家・台本作家のコラボの物語です。
ドン・ジョバンニ、どんな人
一言で言うと、プレイボーイ!
ドン・ジョバンニは、スペインの伝説の放蕩者、ドン・ファンのことです。ドン・ジョバンニはそのイタリア語読みです。
オペラ内の話から、1800名以上の女性を夢中にさせた?というかモノにしてしまった男性です。
年齢も、体型、人種、身分に関わりなく、すべての女性を愛することのできる男性である、それをチャームポイントとしています。
しかしオペラの流れを見てみると、女性に対して面倒見の良い男性ではなく、飽きやすい体質です。
反対に女性に夢中になられると逃げてしまうと、とんでもない性格です。
日本のプレイボーイの代表、光源氏とは大きく違います。
光源氏の場合は、一度でも関わりを持った女性に対し、責任を持って接していますから、日本のプレイボーイの方に軍配をあげたいです。
女性に対する振る舞いに加えて、ドン・ジョバンニは殺人までやってのけますから、もう犯罪者。
最後には、殺した者の亡霊によって地獄に落とされてしまいます。
ドン・ジョバンニ、物語の相関図
オペラというものは、人物関係が複雑ですが、「ドン・ジョバンニ」に関してはそれほどでもありません。
- 主役は、ドン・ジョバンニです。貴族階級にあり、プレイボーイ。次々と女性に手を出します。中低音部のバリトンが役をつとめます。
- 最初に出てくる女性が、ドンナ・アンナ。ドンナというのは女性につける敬称で、英語で言えば、ミスにあたります。こちらはソプラノです。ちなみにドン・ジョバンニのドンは男性の敬称。ミスターですね。イタリアやスペインで使われます。ドンキホーテのドンも敬称です。スペイン人は、店のドンキホーテを「キホーテ」と呼びます。日本人は「ドンキ」ですが。
- 次いで登場する、もう一人の女性が、ドンナ・エルヴィラです。この女性はドン・ジョバンニと以前恋人同士でしたが、ドン・ジョバンニが飽きて捨ててしまった女性です。ドンナ・エルヴィラはドン・ジョバンニを恨んでいますが、どこか忘れられない男性であるのです。ドンナ・エルヴィラはソプラノよりもメゾソプラノが演じることが多いです。
- ドン・オッターヴィオ。ドンナ・アンナの婚約者。父を亡くしたドンナ・アンナの力になります。テノール役です。このオペラの中で唯一のテノールです。
- レポレッロはドン・ジョバンニの使用人です。レポレッロの役柄は、演出によって変わりますが、大体は主人の理不尽な言いつけに渋々従うと言ったところです。レポレッロはバスが役をやります。
- マゼット。農民です。設定では特に書かれていませんが、ドン・ジョバンニの領民だと思います。この役はバスです。
- ツェルリーナ。マゼットと結婚する女性です。マゼットとの結婚式に、ドン・ジョバンニに乱入されます。さて、どうなるでしょう。この女性はソプラノ役です。
- 騎士長。ドンナ・アンナのお父さん。そして、ドン・ジョバンニに運悪く殺されてしまいます。その後は幽霊となってドン・ジョバンニの元にやってきます。この役は低音が魅力のバスです。ドン・ジョバンニのオペラそのものを決定づける役柄です。
ドン・ジョバンニ、あらすじ
オペラは2幕物です。
最初の序曲はドラマティックで、暗い曲調です。
オペラの結末の予感です。途中から長調に変わり軽快になります。暗い要素も含みながら、明るさが増していきます。
そこからは本当にモーツァルトの魅力満載の曲想です。
ドン・ジョバンニ第1幕
幕が開くと、突然ドン・ジョバンニとドンナ・アンナとの言い争いから始まります。
どうやら夜の暗さに隠れて、ドン・ジョバンニがドンナ・アンナに迫りますがうまくいかなくて逃げる羽目になります。
逃げるところをドンナ・アンナの父親、騎士長に見つかり、小競り合いとなり、ドン・ジョバンニは騎士長を殺し逃げていきます。
逃げたところで出会った女性に、気を取り直して口説こうかと思ったらその女性は、以前に付き合って振ってしまったドンナ・エルヴィラと言う女性でした。
ここでもびっくりして、逃げていきます。
この場でエルヴィラと共に残されたレポレッロは、エルヴィラに「ドン・ジョバンニのことは諦めた方がいい。彼は世界中の女性を追い求めている」といい、アリア「カタログの歌」を歌います。
次に目をつけたのは農夫マゼットの新婚の妻、ツェルリーナ。
そこの全員を、自分の邸宅に招待し、結婚を祝い、どさくさに紛れて花嫁のツェルリーナを頂こうと思っていたところに、またドンナ・エルヴィラが現れて、この計画は潰れてしまいます。
ここにドンナ・エルヴィラと共に、父を失ったドンナ・アンナ、その婚約者ドン・オッターヴィオが現れます。
ここでドンナ・アンナはドン・ジョバンニの悪事、つまり自分を襲ったことと、父を殺したことに、声から気がつくのでした。
ドン・ジョバンニは、マズい、と思い、そこから逃げ出しました。
ドン・ジョバンニ第2幕
悪事がバレそうになっても、ドン・ジョバンニは懲りずに、また女性探しに張り切ります。
使用人、レポレッロと衣服を交換して、レポレッロのふりをして出かけます。
そして抗議してきたマゼッタを殴り倒し逃げていきます。
そこへツェルリーナがやってきてマゼットを介抱します。
この場に、ドンナ・エルヴィラとドン・ジョバンニのフリをしたレポレッロ登場
また、ドン・オッターヴィオとドンナ・アンナも現れます。
全員びっくりしますが、ここでドンナ・エルヴィラはドン・ジョバンニを庇います。実はドンナ・エルヴィラはドン・ジョバンニが忘れられなかったのですね。
びっくりしたレポレッロは、正体がバレて逃げ出しました。
逃げ出した先は墓地、墓地にはドン・ジョバンニもいました。そこには殺された騎士長の石像が・・・なんと動き出します。
石像は、ドン・ジョバンニに「悔い改めよ」といいます。
これは怖い!、レポレッロは震え上がります。
しかしドン・ジョバンニは大胆にも自宅への食事に誘います。
石像はオーケーしました。
果たして・・・・石像は本当にやってきました。
石像は再びドン・ジョバンニに悔い改めるよう言います。
ドン・ジョバンニは拒み、自分は好きなように生きるのだ、と言い放ちます。
石像は無理やり、ドン・ジョバンニの手を掴み地獄に連れ去っていきました。
全てにケリがついたのち、残りの登場人物は、全てを知り大団円を迎えて終わります。
ドン・ジョバンニの見どころは?
ドン・ジョバンニ役
ドン・ジョバンニと言うキャラクターに対しては全く庇うことができないほどの、犯罪者で共感できるものではありません。それでも・・・
ドン・ジョバンニの声
「ドン・ジョバンニ」役は犯罪者でも、作品は人気があります。
ドン・ジョバンニ自身は、貴族階級でお金があり、見た目もよく話し上手なのでしょう。
しかしそれ以上に魅力の秘密は、ドン・ジョバンニのオペラとしての声質にあると思います。
声域はバリトンです。中間部でテノールほど高くありません。
きちんと訓練を受けたバリトン歌手ならそれほど苦労せずに歌える音域です。
ですから役についた歌手は、余裕を持った歌い方をすることができます。
これは、ドン・ジョバンニを演じた歌手の多くがそのように語っています。
だからと言って簡単に歌える役ではもちろんありませんが。
その分、女性役の人たち、そして観客にとても魅力的に声で訴えることができるのです。
ドン・ジョバンニの性格
単に女たらし、と言ってしまうだけではありません。
その行動が潔いのです。
「女たらし」に潔い・・・とはどうも変な話ですが。
特に最後によく表れています。
騎士長の幽霊(石像)が表れて、ドン・ジョバンニの行動を「悔い改めよ」と言っても、自分の生き方をあくまでも曲げようとしないところ、です。
本当はドン・ジョバンニ自身も、石像がやってきたのを見て、内心は恐れていますが、言葉にはそれを表さず「やれるもんならなってみろ」と言う態度を示します。
空元気、ではありますが、ここに強いドン・ジョバンニの生き方に対する信念が表れています。
ここに聴衆は惚れるのです。
ドン・ジョバンニを忘れられない登場人物たち
登場人物の女性は皆、ドン・ジョバンニに惹かれています。
ドンナ・エルヴィラの場合
その代表選手が、ドンナ・エルヴィラ。彼女はドン・ジョバンニと3回関係を持ちます。
そして捨てられてしまいました。
ドンナ・エルヴィラはそれを恨んで、ひどい男だ、と言って、ドンナ・アンナやツェルリーナに注意します。
でも結局、ドン・ジョバンニを忘れられず、彼を庇います。
そしてもう一度、ドン・ジョバンニに迫っていきます。
ちょっとストーカー気質かもしれません。
ツェルリーナの場合
ツェルリーナはマゼットとの結婚式でドン・ジョバンニに誘惑されます。
そして、ドン・ジョバンニにだんだんと引き込まれていきます。
途中で、これはいけない・・・と、新婚の夫マゼットの元に謝りかえってきます。
しかし再びドン・ジョバンニに愛をささやかれると、地位もお金もある人の愛人になるのもいいかもしれない・・・と思い始めます。
ちょっと打算的な女性なのですね。
平民と言われる身分であればこそ、愛人となることで自分の地位が上がることを夢見るのかもしれません。
ドンナ・アンナの場合
ドンナ・アンナは、オペラの始まりで、ドン・ジョバンニに襲われそうになって、逃げ出した人物です。
娘の危機に駆けつけてきた父は、ドン・ジョバンニによって殺されていましいました。
親の仇ですから、ドン・ジョバンニを恨んで当然なのですが・・・ところどころに歯切れの悪さが表れます。
それは何かというと、婚約者のドン・オッターヴィオのプロポーズに、なかなかイエスの返事をしまないところです。
父の死にショックを受けて、と言ってますが、実は心密かに、ドン・ジョバンニが心に引っかかって離れない、と言う心境です。
ドンナ・アンナの心の動きを探るのが、このオペラの一番厄介なところです。
「ドン・ジョバンニ」のアリアたち
なんと言っっても、オペラの魅了はアリアです。
「ドン・ジョバンニ」には、よく知られている美しいアリアがいくつか紹介しましょう。
- 使用人のレポレッロが歌う「カタログの歌」。カタログとは、手帳のことです。レポレッロの主人、ドン・ジョバンニがこれまで落とした女性の特徴と数を記しています。それを読み上げるのです。レポレッロのちょっとコミカルな演技が光ります。
- ドン・ジョバンニがマゼットたちの結婚を祝うよう自宅で開いたパーティーでの「シャンパンの歌」。その間にドン・ジョバンニはまた女性を口説こうと考えていました。
- ドン・ジョバンニが歌う「お手をどうぞ」第1幕でドン・ジョバンニがツェルリーナを口説く歌です。ドン・ジョバンニといえばこの歌を思い出す人が多いのではないでしょうか?
- 「ぶってよ、マゼット」。ドン・ジョバンニに言いくるめられたツェルリーナが、反省して、マゼットに謝る歌です。
- 同じくツェルリーナのアリアで第2幕の「薬屋のアリア」。これは、マゼットがドン・ジョバンニに打ち据えられた後、傷が痛む、と言ってツェルリーナに甘えた時に、ツェルリーナが歌います。
有名どころを集めていましたが、他にも、ドンナ・アンナ、その婚約者ドン・オッターヴィオ、ドンナ・エルヴィラにもそれぞれ美しいアリアがあります。
「ドン・ジョバンニ」地獄落ちの場面
ここがオペラ「ドン・ジョバンニ」の最大の見せ所です。
ドン・ジョバンニ、石像、レポレッロ、それぞれが自分のセリフを歌い見事な三重唱を作り上げます。
石像は、淡々とした歌い方で、ドン・ジョバンニに、行いを改めるよう歌い、ドン・ジョバンニは自分の自分の好きなように生きると歌います。
一方、レポレッロは、石像が動いている恐怖を歌いあげます。
全然違う歌詞が、音が半音づつ移動する不安を煽るような伴奏で歌われていきます。
そして地獄からの使者を思わせる合唱が響き、最後の叫びと共に、石像はドン・ジョバンニを地獄に連れて行ってしまうのでした。
このシーンは怪談並に怖いです。
このオペラに出演する歌手たちは、舞台前にお祓いをした方がいいのでは・・・と思うのですが。
「ドン・ジョバンニ」映画
アメリカ、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場では毎年、ステージを映画に撮って期間限定を上映しています。
2023年6月30日〜7月6日まで、「ドン・ジョバンニ」の上映があります。
上映される映画館は、限定されており、ある程度の大都市でないと上映されないのが残念です。
東京の東劇だけは7月13日まで上映しています。
このオペラは、舞台を現代に置き換えて、衣装も全くの現代風です。
メトロポリタンの歌手たちの力量は本当に素晴らしいです。
劇場のオペラ公演に行くと、〜万というチケット料がかかりますが、映画の場合は3700円と言うのがうれしいです。
それでも通常の映画よりは高いですけれどね・・・
映画を見てオペラをみて、お気に入りの演奏をぜひ探してください。
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